「潮吹き」と聞くと、多くの人は女性の身体反応を思い浮かべると思います。
ところが最近では、
「男性も潮を吹くことがある」
という話を目にするようになりました。
では、男の潮吹きと女の潮吹きは、同じ現象なのでしょうか。
見た目だけなら、
性的な刺激の最中やその前後に尿道から液体が出る。
確かに似ています。
でも結論から言うと、
男性と女性の「潮吹き」を、まったく同じ身体反応として考えることはできません。
さらに女性の場合でさえ、
「潮吹き」と「女性射精」は、現在の研究では分けて考えられています。PubMed (海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
つまり、
私たちが普段ひとまとめにしている「潮吹き」という言葉の中には、実はかなり違う現象が入っているのです。
今回は5部作の第1部として、
男女の身体では、いったい何が起きているのか。
まず全体像から整理してみます。
「潮吹き」という言葉が少しややこしい
SEXについて話すとき、
私たちは医学用語だけを使っているわけではありません。
「イク」
「濡れる」
「潮を吹く」
こうした言葉は日常的には便利ですが、身体の中で起きていることを正確に区別しているとは限りません。
特に「潮吹き」は、その典型だと思います。
女性の場合、
透明に近い液体が比較的多く排出される現象を英語では squirting(スクワーティング) と呼びます。
一方で、
少量の分泌液が尿道周辺から排出される female ejaculation(女性射精) という現象があります。
以前はこの二つがかなり混同されていました。
現在のレビュー研究では、両者は見た目は似ていても、液体の由来や量が異なる現象として整理されています。PubMed (海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
日本語ではどちらも、
「潮を吹いた」
と言われてしまうことがあります。
ここが最初の混乱です。
女性の潮吹きでは、何が出ているのか
「女性の潮吹きって、結局おしっこなの?」
これはかなり検索される疑問だと思います。
答えは少しだけ複雑です。
岡山大学などの研究グループが行った研究では、女性のsquirtingで排出された液体を分析した結果、主成分は膀胱由来の尿であることが確認されました。
一方で、液体からPSAという物質も検出され、尿道周囲にあるスキーン腺由来の分泌液も混ざっていることが示されています。国立大学法人 岡山大学
ですから、
「完全に尿ではない」
と断言するのも違いますし、
「ただ普通に排尿しているだけ」
と言ってしまうのも、少し乱暴です。
性的な刺激に伴って起こる身体反応として、膀胱から尿道を通って液体が排出され、その中に尿道周囲腺由来の成分が混ざる場合がある。
現時点では、そんなふうに理解するほうが近いでしょう。
では「女性射精」は何なのか
ここがさらにややこしいところです。
医学文献では、
squirtingと女性射精は同じものではない
と考えられています。
squirtingは比較的多量の透明な液体で、主に膀胱由来。
女性射精は通常それより少量で、尿道周囲腺、いわゆるスキーン腺からの分泌物が中心とされています。PubMed (海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
しかも、
二つが同時に起こる可能性もあります。
これでは、本人が、
「今のは潮吹きなのか、女性射精なのか」
と判断できなくても当然です。
実際のSEX中に、
「ちょっと待ってください。これはどちらでしょう」
と分析する人も、あまりいないでしょう(笑)。
身体は医学書どおりに項目を分けて反応してくれるわけではありません。
「尿が含まれる」と聞くと、なぜ恥ずかしくなるのか
ここから少し心理の話です。
「潮吹きの主成分は尿です」
という説明を見ると、
急に恥ずかしくなる女性もいるかもしれません。
「それなら、漏らしただけなの?」
「汚いことなの?」
そう感じる人もいるでしょう。
でも私は、
液体の成分と、その人がその体験をどう感じるかは分けて考えたほうがいい
と思います。
涙の主成分が水だからといって、
泣いた感情まで「ただの水」とは言いません。
汗に塩分が含まれているからといって、
運動した爽快感まで塩水の話にはなりません。
潮吹きについても同じです。
「何でできているか」は身体の科学。
「そのとき何を感じたか」は、その人の体験です。
二つをごちゃ混ぜにすると、
身体について正しく知ろうとしたはずなのに、
なぜか恥ずかしさだけが残ってしまいます。
ただし、尿失禁とは区別して考える必要がある
もう一つ、ここは大切です。
SEX中に尿道から液体が出たからといって、
すべてがsquirtingとは限りません。
性交時の尿失禁という現象もあります。
研究レビューでも、女性のsquirtingや女性射精と、性交時尿失禁は区別して扱う必要があるとされています。PubMe(海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
たとえばSEX以外でも、
咳やくしゃみで尿が漏れる。
運動時にも漏れる。
頻繁な尿意や排尿トラブルがある。
本人が強く困っている。
そうした場合は、
「潮吹きだから大丈夫」と自己判断せず、泌尿器科や女性泌尿器科などへ相談する選択肢もあります。
SEXの話だからといって、
何でも性的な現象として処理する必要はありません。
では「男の潮吹き」とは何なのか
ここから男性です。
「女性が潮を吹くなら、男性にも同じことがあるのでは?」
そう考えるのは自然です。
実際、「male squirting」という言葉は使われています。
ただし、
女性のsquirtingほど研究が蓄積されているわけではありません。
日本の研究者らが報告した有名な研究では、25歳男性1人を対象に、カラードプラ超音波を使って「male squirting」が観察されました。
そのケースでは通常の射精後、さらに性的刺激が続いた際に透明な液体が排出され、超音波では液体が膀胱から前立腺部尿道を通って外へ流れる様子が確認されました。
液体のクレアチニン濃度も尿に近い値だったと報告されています。PubMed (海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
つまり、
少なくともこの症例では、
膀胱内の尿が排出された現象
と考えられます。
ただし「男性もみんなできる」とは言えない
ここは非常に重要です。
ネットの記事では、
「男性にも潮吹きがあります」
と、かなり簡単に書かれていることがあります。
しかし先ほどの研究は、
1人の男性を詳しく観察した症例報告です。
これだけから、
「男性なら誰でもできる」
「この刺激をすれば起きる」
「男性の潮吹きとは必ずこの仕組みだ」
と一般化することはできません。
研究論文自体も、それまで男性の潮吹きのメカニズムには科学的証拠が十分ではなかったことを前提として報告しています。PubMed (海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
この、
「分かっていること」と「まだ分からないこと」を分ける
ことが大切です。
SEXの話になると、
一例の体験談が、
いつの間にか「人間の身体はこうなっている」という話になりやすいからです。
男の潮吹きと射精も、同じではない
男性の場合、
さらに「射精」があります。
精液が排出される通常の射精と、
いわゆる男性の潮吹きは、
少なくとも報告された症例では別の現象として観察されています。
実際、その症例では通常の射精が起きたあとに、別の液体が排出されています。PubMed (海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
ですから、
射精量が多かった=潮吹き
という意味でもありません。
また、
射精しないオーガズム、
逆行性射精、
尿の排出、
前立腺からの分泌など、
男性にも似た言葉や現象があります。
ここを全部「潮吹き」でまとめてしまうと、
かえって分からなくなります。
男性については第3部で、もう少し丁寧に整理します。
男と女の潮吹きは「似て見えるだけ」なのか
ここまでを見ると、
面白いことに気づきます。
女性のsquirtingでは、
膀胱が関係している。
男性で観察されたsquirtingでも、
膀胱が関係していた。
では、
「やっぱり男女で同じじゃないか」
と思うかもしれません。
でも、そう単純ではありません。
男性と女性では、
尿道周辺の解剖学的構造も違います。
性的反応の仕組みも違います。
女性ではsquirtingと女性射精という異なる現象が研究されています。
一方、男性のsquirtingについては、研究そのものがまだ非常に限られています。PubMed (海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
したがって現時点では、
「男女とも膀胱由来の液体が関係する例はある。しかし、それを同じ現象だと断定するほど単純ではない」
という理解が一番慎重だと思います。
そして、一番間違えたくないこと
ここまで、
液体がどこから来るのか。
尿なのか。
スキーン腺なのか。
膀胱なのか。
そんな話をしてきました。
でも、
もっと大切なことがあります。
潮を吹いたから、SEXが成功したわけではありません。
反対に、
潮を吹かなかったから、
感じていないわけでもありません。
これは、この5部作で最終的に一番伝えたいところです。
身体から液体が出る現象は、
目で見えます。
だから、
「すごく感じた証拠」
「オーガズムの証拠」
「相手を満足させた証拠」
と思いやすい。
でも、
身体反応と快感は、
そんなに単純な一対一の関係ではありません。
女性のsquirtingと女性射精を扱った研究でも、これらの現象とオーガズムを単純に同一視することはできません。PubMed (海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
SEXは「目に見える結果」があるほど分かりやすい
男性の場合は射精。
女性の場合には潮吹き。
どちらも、
外から見て分かりやすい身体反応です。
だから人は、
そこに意味を持たせたくなるのかもしれません。
「出たから気持ちよかった」
「出なかったから満足していない」
「潮を吹かせられたからSEXが上手」
本当にそうでしょうか。
相手が、
安心できた。
気持ちよかった。
触れられることを心地よいと思った。
また抱き合いたいと思った。
こういうことは、
液体の量では測れません。
SEXに点数表があるなら簡単なのですが、
残念ながらありません(笑)。
むしろ、
目に見える反応だけを「成果」にすると、
二人の間に妙なプレッシャーが生まれることがあります。
この問題は第4部、第5部で詳しく取り上げます。
「できる・できない」で考えなくてもいい
潮吹きを経験したことがない人もいます。
経験する人もいます。
毎回ではない人もいるでしょう。
それ自体で、
性機能の優劣が決まるわけではありません。
男性についても同じです。
「男の潮吹きができる」
ことを、
新しいSEXテクニックのように考える必要はないと思います。
人間の身体には個人差があります。
そして性生活で本当に重要なのは、
他人と同じ身体反応が起きることではありません。
自分と相手にとって心地よいこと。
嫌ならやめられること。
恥ずかしいことを笑われないこと。
何かが起きても、
「大丈夫?」
と話せること。
私は、そちらのほうがずっと重要だと思います。
まとめ|「潮吹き」という一言では説明できない
男の潮吹き。
女の潮吹き。
言葉だけを見ると、
同じ現象の男女版に見えます。
でも身体の中を見ると、
それほど単純ではありません。
女性では、
squirtingと女性射精は異なる現象として研究されている。
squirtingでは膀胱由来の尿が主成分となり、スキーン腺由来の分泌物が混ざることがある。PubMed
(海外サイトです。翻訳して参考にしてください)
男性でも、
膀胱から尿道へ液体が排出された「male squirting」の症例は報告されています。
ただし研究例は非常に限られており、
男性一般に同じ仕組みが当てはまるとまでは言えません。
そして何より、
潮吹きと、快感やオーガズムやSEXの満足度を同じものとして考えないこと。
ここが大切です。
身体から何が出たかを知ることは、
身体を理解するうえで面白い。
でもSEXは、
何かを「出すため」にするものではありません。
潮吹きという現象を知ることから始めて、
最後には、
私たちはなぜSEXに「成功」や「成果」を求めてしまうのか。
そこまで考えてみたいと思います。
このシリーズでは、そこへ向かって5つの角度から見ていきます。
次の第2部では、
「女性の潮吹きは尿なのか|女性射精・潮吹き・尿失禁は同じではない」
を取り上げます。
「尿なら恥ずかしいことなのか?」
というところまで、もう少し深く考えてみます。
運営者のメッセージ
性について調べていると、
不思議なことがあります。
本来は自分の身体を知るための情報だったはずなのに、
いつの間にか、
「自分は普通なのか」
を確認するための情報になっていることです。
潮を吹いたことがある。
ない。
オーガズムを感じる。
感じにくい。
射精できる。
できない。
人と比べ始めると、
身体というのは途端に「成績表」のようになってしまいます。
61歳になって思うのは、
SEXほど成績表に向かないものもない、
ということです。
昨日と今日で違う。
相手によって違う。
年齢でも変わる。
体調でも変わる。
気持ちでも変わる。
それなのに、
「これができたから100点」
という話にすると、
大切なものをかなり取りこぼしてしまう気がします。
今回の5部作では、
潮吹きを否定するつもりも、
特別なものとして持ち上げるつもりもありません。
ただ、
身体では何が起きているのか。
なぜそれを気持ちいいと思う人がいるのか。
なぜ恥ずかしいと思う人がいるのか。
そしてなぜ、
相手を「潮吹きさせたい」と思う人までいるのか。
身体の話から始めて、
最後は少し心の話まで行ってみます。
たぶん、
潮吹きそのものより、
それを見た私たちが何を感じるのか。
そこに、SEXの面白さと難しさの両方があるのだと思います。
